ベルナルド・ベルトルッチ『ラスト・エンペラー』

この作品をもって、鬼才ベルトルッチは巨匠となり、坂本龍一は名実ともに“世界のサカモト”となった。 個人的述懐だが、わたしがこの作品に触れた最初は小学生のときに聞いた音楽においてだった。母がテープでこの映画のサウンドトラッ […]

2003.07.07
第二十七エペイソディオン(1)

先月、H.林は二十七歳になった。彼はこの歳で、いまだに学生だったが、もちろん、本人にしてみれば、けっしてモラトリアムの延長という気分でいるわけではなく、むしろ、日ごろ安易に流されてしまいやすい自分を鼓舞する背水の陣のつも […]

2003.06.23
鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』

1980年代日本映画の金字塔。作品の叩き台となった「サラサーテの盤」の原作者である内田百?は、ある特異な系譜に位置する作家である。とはいえ、作品のクレジットに原作「サラサーテの盤」と書かれているが、たんにそれだけが題材に […]

2003.06.01
文学とスピノザ的平面

文学、それは恐るべきものである。なにしろ、文学は、ネーションを作ってしまったのだから。その意味で言えば、あるひとつの文学的なものが、ネーションの胎動とともにあらわれ、そしてネーションの老化とともに消え去る運命にあるのもま […]

2003.05.28
空海

京都国立博物館にて、「空海と高野山」展が開催されている。真言密教の開祖、空海の思想は、このような言い方が許されるなら、南都六宗などいわゆる顕教のエクリチュール中心主義に対して音声中心主義を基軸としている。こうした音声中心 […]

2003.05.22
ポロス Pholos

彼は、名をメティスといった。メティスは、つい、いましがた、劇場を後にしたところである。彼は、またしても公演の途中で劇場を後にしてしまった自分を呪った。劇が終わるまで座席に座る、という、ただそれだけのことが自分にはうまくこ […]

2003.05.16
カントについて

現象はそれ自体として物ではないから、現象を表象として規定するためには、現象の根底に物自体が存しなければならない。(カント『純粋理性批判』) わたしはカントのような見方をしない。つまり、視覚などの諸感覚によっては認識不能の […]

2003.04.10
文体について

アメリカはどうしても戦争したいようだ。記者会見に挑むパウエル国防長官の苦悩が察せられる。まったくアメリカ追随の日本だが、本当にあの政権が長続きすると思っているのだろうか。フランスやドイツの明確な反米の態度は、そこまで見越 […]

2003.02.03
書評について

書評は必要である。また、真に生産的なものとは、まずもって良質の書評から始まる。 たしかに以前、批評、あるいは思想が、文学を殺すと書いたことがある。だが、それは、むしろ歴史的に不可避なのであって、たんに否定すべきものではな […]

2002.11.05
哲学と文献学

わたしの専攻はニーチェとおなじく古代ギリシア・ローマ史であるわけだが、「史」という言葉が定義上どのような範囲をもつにせよ、やることは決まっている。文献をひたすら読むことである。たしかに、“東洋”の端に位置するこの国にあっ […]

2002.11.03
ローマ帝国の衰亡について

パックス・ロマーナ(pax Romana:ローマの平和)と呼ばれる時代がある。これはもちろん、近代の歴史家による造語ではない。同時代に語られていたものである。大プリニウスは言っている。 ローマの平和の計り知れぬ尊厳によっ […]

2002.10.31
ポリスについて

かつて、地中海には、系統不明の民族、“海の民”と呼ばれる人々がいた。エーゲ海に浮かぶ島々を利用することで補給を自在にし、アッシリアやエジプト、あるいはヒッタイトなどの国家的な支配に対抗していたのである。彼らの活動は、その […]

2002.10.28
ダニエル・リベスキンド展

ダニエル・リベスキンド展。広島。 ポーランドはウーチに生まれた建築家、ダニエル・リベスキンドは、ベルリンのユダヤ博物館においてその名を世界に知らしめた。もはや忘却の穴へと落下しつつあるホロコーストの記憶を、彼は鋭角の折り […]

2002.09.28
カントの外

扉の向こうに何があるのか、わたしが考えていたことは、いつもそのことだけだった。扉を見ていると、無性に向こう側の空気が吸いたくなった。鍵穴がこちら側にあるので勘違いしていたのだが、てっきり、わたしは扉の外にいるのだと思って […]

2002.09.15
スピルバーグ『A.I.』

スピルバーグ得意のSFファンタジーもの。本作は最近亡くなったスタンリー・キューブリックにささげられている。 期待せずみたが、なかなかおもしろかった。期待した鑑賞者は多かったかもしれないが、期待に答えうる作品であったかどう […]

2002.08.14
物語としての柄谷行人

柄谷行人の膨大な著作は、そのそれぞれが、独立して読める素晴らしい作品ばかりだが、しかし、これらを、一連の物語として読むことも可能である。物語として?彼がもっとも批判するもののひとつが、物語ではなかったか?ひとは、出来事を […]

2002.08.08
脱臼せる近代

いまも、アフガニスタンでは、ケシしか育たない荒野に劣化ウラン弾が落とされているのだろう。そして、誤爆で、およそ空爆を受けるいわれのない多数の貧民が突如として死を迎える。マラリアで死を迎えようとしていた子供が、爆弾で死ぬ。 […]

2002.08.02
文学と予言

文学と予言とは、おそらく、密接なつながりがある。ギリシアにおける紀元前五世紀が、アイスキュロスや、ソフォクレス、そしてエウリピデスらによる「悲劇」の時代だったのは、デルフォイやオリュンピアなどの神託――すなわち予言が、何 […]

2002.07.15
パイドロス

プラトンは、弁論術――あるいは語ることと書くことについて述べた著作、『パイドロス』において、ソクラテスにこう語らせている。 ソクラテス このぼくはね、パイドロス、話したり考えたりする力を得るために、この分割と総合という方 […]

2002.07.10
ソクラテスの節制

《節制》(ソフロシュネー)は、生の過剰を《肯定》したニーチェが批判していたように、悪しきプラトン主義の産物なのであろうか。否、けっしてそうではない。おそらく、この考えは、時代とともに、あるいは政治とともにある。過去にウェ […]

2002.05.22
歴史の方法

オスカー・ワイルドは言っている。「けっして起こらなかったことを正確に記述するのが、歴史家の仕事である」と。JLGの作品にも引用されていたこの言葉は、いかように解釈されるべきなのだろうか。 歴史家は、その探求の対象に、前期 […]

2002.05.03
アニエス・ヴァルダ『落穂拾い』

某所の映画館でアニエス・ヴァルダ監督作品、『落穂拾い』を鑑賞する。ミレーなどバルビゾン派の絵画に多くみられる落穂拾いの主題から着想を得て撮られた、ドキュメンタリータッチのロードムーヴィーである。齢七十台半ばを迎えんとする […]

2002.04.27
高橋悠治ピアノ・リサイタル:音と夢の時

ふりしきる雨と強風を避けるようにして、高橋悠治のピアノリサイタルを聴くため大阪(石原ホール)へとむかう。客席はほとんどすべて埋まっていたものの、運指やペダリングなどその演奏振りをしっかり見ることができる、前から三列目の向 […]

2002.04.21
雪舟展

昨日、雪舟展を開催している京都国立博物館を訪れた。わたしは絵画をあまり観ない。それはとくに興味がないということではなく、単に文化的行事にアンテナが立っていないのである。したがって、気づいたときには手遅れ、ということが多い […]

2002.04.06
象形文字とアルファベット―デリダの音声中心主義批判

柄谷行人は、デリダを批判する際、よくこのように言う。デリダは、音声中心主義を批判するとき、プラトンにまでさかのぼってこれを説明しようとする、このことは、音声中心主義がヨーロッパに固有の問題であるように見せ(ヨーロッパ中心 […]

2002.01.25
シュミット『ラ・パロマ』

中世以来の貴族の息子イジドールは、盛り場の歌姫パロマを見初め、無限の愛を注ぐ。病で医者から余命わずかであることを告げられたパロマは彼の愛人となり、結婚するも、彼を愛することはなく、イジドールの友人、ラウルと一夜をともにす […]

2001.12.28
ホウ・シャオシェン『非情城址』

台湾には、今日でも、戦前から居住する本省人と、戦後に中国大陸からやってきた外省人とのあいだに根深い対立がある。歴史的に言えば、日本の敗戦・撤退の後、一九四八年二月二八日、外省人は、本省人の弾圧を敢行した経緯がある。この、 […]

2001.12.23
グスタフ・レオンハルト

昨日は、京都コンサートホールでグスタフ・レオンハルトによるチェンバロのリサイタルがあった。レオンハルトといえば、世界最高のチェンバロ奏者のひとりであり、映画『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』(ストローブ&ユイレ監督) […]

2001.12.08
ヴァレリー・アファナシエフ(二)

再び、颯爽とアファナシエフは登場した。低い椅子に彼の痩躯(そう見えた)を埋めて、譜面台の上にそっと手を置く。瞬時に彼の周りの空気が醒めていくのがわかる。静謐とした冷気が彼を包み込む。そうして、昨日と同じように、また不意に […]

2001.10.31
ヴァレリー・アファナシエフ(一)

彼は颯爽と登場した。そして、低い椅子に座り、彼が鍵盤に向かうやいなや、彼の周りにできたわずかな空気の隙間に、静寂のヴェールが浸入する。聴衆は一気に緊張の度を高める。彼は、おもむろにかなり高い位置に両手をあげ、その手を、鍵 […]

2001.10.30
«...1112131415»
EX-SIGNE
EX-SIGNE
PROFILE
WORKS
CONTACT
DIARY
LINKS
feed ENTRIES | COMMENTS