左翼の「劣化」?

criticism
2026.02.27

さて、現代社会を眺めていると、自分には左翼が「劣化」しているとみえる。なぜそうみえるのか。ほとんどコミュニケーション不可能なほどの乖離がある。「劣化」と言ったが、それはここではたんに「拒絶」を意味する。それは自分のモットーではないから訂正したい。右であれ左であれ、まず「理解」から。それが自分の長年のモットーである。「劣化」にみえても、テクストに依拠して語ろうとする彼らの「誠実」、おそらくは国民へのたえざる「忠誠」の表明なのである。

政治的コミュニケーションのベースに「憲法」がある者とない者がいる。問題はそこに行き着くように思われる。憲法というか、「立憲主義」というべきだ。すなわち、個人の権利のために国家権力を制限する、というよく知られた思想である。しかし、この概念はそれほど簡単なものではない。

上記「立憲主義」をベースにする者としない者とでは、同じ左派(あるいは非右派)であっても、時の政権に対する態度が変わってしまう。それが今日、批判的知識人の内部で発生している奇妙なディスコミュニケーションの象徴的な一因になっているように思われる。

「国家権力を制限」しようとする際、それを保証する「法」が、ベースというか前提に存在する。この前提をそれ以上遡れないものとみて、そこから思考を始めるか、それともこれを前提せずに思考しようとするか、ここにひとつの分水嶺がある。突き詰めると、この「立憲主義」なる概念は、〈歴史的なもの〉(相対的なもの)か〈普遍的なもの〉(絶対的なもの)か、という問いに行き着く。

気軽なエッセイのつもりで書いているから簡単に話せば、自分は「立憲主義」は歴史的概念として正しいと思っている。だが、けっして普遍的概念でも絶対的概念でもないと考えている。そもそも国家権力を縛るほどの絶大な力が、諸言説の束にすぎない憲法からなぜ発するのか、憲法だけ考えても誰も説明できない。人類がたどってきた歴史にあると考えるしかない。

さらにいえば、その歴史がある一定の集団に通用する形で共有されている、ということにしかない。だから共有された歴史の強度が緩んでいけば、必然的に立憲主義も緩んでいく。端的に言えば、ペロポネソス戦争以来の民主主義国家の暴走の歴史が共有されているかぎりで(日本ならとりわけあの敗戦の歴史が共有されているかぎりで)、立憲主義は正しく機能する。

いいかえると、国家の歴史を反省する立場にいられるかどうか、である。立憲主義はその意味でつねにひとに「反省」を要求している。だから、共有された歴史の強度が足りなくなっている現状で、なにをどうすべきなのか。問題はここになる。歴史を学ぶ反省好きのインテリは、こうして世間と乖離していく。世間はわざわざ幾世代も前の他人の過去をふりかえるほど、悠長な生活をしていないからである。

共有された歴史の内在的な強度が低下していくなかで、立憲主義(前提としての立憲主義)的な主張をつづけても、それは外からもたらされるドグマにしか聞こえない。さらにいえば、「押し付け憲法論」と立憲主義とは非常に相性が悪く、ほとんどの左翼はこの二重のドグマがもたらすだろう問題に気づいていない。

国家権力を制限するという立憲主義は、内在的な歴史に端を発する力でなければならない、と自分は考える。ならば、明治憲法との潜在的連続性を主張する方が、立憲主義は正しく機能するだろう。敗戦という一度きりの事件に賭けるよりも、封建時代の反省、戦前の反省……とやるほうが、歴史の強度ははるかに増す。

ともあれ、問題はもうすこし単純だ。立憲主義は明文化されない、潜在的な歴史の力に属している。これを言説の形であっても明文化すれば、一商品である。この商品を買う人間もいれば、買わない人間も出てくる。買った人間からすれば、買わないというだけで、その人間が国家権力に阿諛迎合する愚劣な人間にみえるわけだ。

しかし、買わない人間が立憲主義に反対しているわけではないのである。国家権力を制限すべき、というのはおそらくほんとうだ。しかし、国家権力への批判が法によって保証されている状態は、左派の向上に有利というわけではない。むしろ逆に作用する。それに、国家権力は国家のどこに存在しているのか。首相の身体に局所化されていればわかりやすいが、そのわかりやすさもまた左派を劣化させる。そもそも、権力の所在がわかっている人間は自分もふくめてほとんどいない。批判の矛先はそこでいいの?というわけだ。見やすい敵を攻撃しているだけで、ほんとうに国家権力の制限になっているのかどうか。

ところで、押し付け憲法肯定論と立憲主義は両立するのか。左派はこれをもうすこし真面目に考えてみるべきではないか。自分は法哲学が苦手な、つまり政治哲学のほうが好みの歴史学者なのだが、まずテクストがあった、というタイプの思考から、いかにして立憲主義という歴史の力を引き出せるというのか。

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